2016年5月30日 (月)

MVNOが純増数でキャリアを抜いた模様

総務省で電気通信市場検証会議というのが始まりました。

この会議の第1回資料の資料1-2のP18を見ると、MNOとMVNOにおける契約数の純増の推移のグラフがあります。

これをみますと、2015年9月の時点(2015年度第2四半期)で、MVNOの純増がMNOの純増を初めて上回りました。更に、12月の時点ではMNO45万に対し、MVNOは88万とさらに大きく差が開いています。

従来から知られている携帯キャリアの純増数のデータはTCAが四半期毎に発表するもので、実はこれにはMVNOのものがMNOの中に含まれています。MVNOが利用するMNOはNTTドコモが一番多いので、NTTドコモの純増が最近多いのは、MVNOの純増を反映しているためだ、という解説も良く聞かれます。(注)

総務省の統計では、MNOの中からMVNOをのぞいた数値がかかれていますので、これでピュアな携帯キャリアの純増数を知ることができます。なお、この統計で言うMNO,MVNOは携帯電話だけでなく、PHS,BWA*も含まれています。また、MVNOの中には組み込み型などのものがあるので、いわゆる格安スマホや格安SIMだけとは限りません。

TCAの統計では携帯の純増が約153万、BWA*の純増が253万です。BWAの純増が異様に多いのですが、これにはauの最近の端末(iphoneだと6以降)はTD-LTEの機能があることから携帯とBWAで二重計上されているものと思われます。(同様なことはsoftbankのiphoneなどにもいえますが、WCP**が統計に含まれていないため数字に出てきていません。)総務省でも、以前はこのような場合 新規契約1件がLTEとBMA(WiMAXなど)の2つの契約と二重計上されていたようですが、2014年12月末からこのような場合は1契約としてカウントするようにしたそうです。http://www.soumu.go.jp/main_content/000350586.pdf

一方、総務省で2016年5月26日に開催されたICTサービス安心・安全研究会第9回利用者視点からのサービス検証タスクフォース(第7回)と合同開催)の資料1 P9には、大手携帯電話事業者の端末販売状況のグラフが示されています。これを見ると平成27年度3Qの端末販売は1,210万台でした。新規純増が45万に対して、端末が1,210万台も売れたということは、端末販売の96%は機種交換又はMNP転入ということが伺われます。

(注)TCAの統計には、PHSとBWA*のWCP**が含まれていませんが、凡その趨勢が分かります。

*BWAの定義はこちらをご参照ください。

**WCPはかつて次世代PHSと言われたAXGP方式でBMAのサービスを提供するソフトバンク系の会社です。

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2016年4月15日 (金)

公開されている通信の秘密関係ドキュメント

日本では通信の秘密に関する解説資料があまりない、ということなので、私の知っている公開資料について紹介したいと思います。総務省のもの以外に、団体(協議会)のものとがありますが、いずれも出所はしっかりとしたものなので内容的には大丈夫です。(Internet Weekのものを除き)

青少年保護

SNSのミニメールの内容確認と通信の秘密、特に約款によるデフォルトオンの同意の有効性

平成23年10月28日
利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備に関する提言
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban08_02000051.html

DPIを活用した行動ターゲティング広告、ライフログサービス及びSNSのミニメールの内容確認と通信の秘密

平成22年5月26日
「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」第二次提言
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02kiban08_02000041.html

情報セキュリティ

各国の法制度の比較
平成20年 次世代の情報セキュリティ政策に関する検討会
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/chousa/next_generation/index.html
最終報告書は削除されていますが、最終報告書案を第10回配布資料からダウンロードすることができます。

通信の秘密全般、マルウェア配布サイトアクセスに対する注意喚起における有効な同意、DNSAmp攻撃への対応など

平成26年4月4日
「電気通信事業におけるサイバー攻撃への適正な対処の在り方に関する研究会第一次とりまとめ」
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu03_02000074.html

C&Cサーバ等との通信の遮断における有効な同意、脆弱性を有するブロードバンドルータ利用者調査と注意喚起

平成27年9月9日
「電気通信事業におけるサイバー攻撃への適正な対処の在り方に関する研究会 第二次とりまとめ」
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu03_02000100.html

上記を受けて作られているのが、

インターネットの安定的な運用に関する協議会
電気通信事業者におけるサイバー攻撃等への対処と通信の秘密に関するガイドライン
https://www.jaipa.or.jp/other/intuse/

この解説資料
Internet Week 2015 S9 ISPによる昨今のセキュリティ事案対応と通信の秘密のガイドライン
https://www.nic.ad.jp/ja/materials/iw/2015/proceedings/s9/

児童ポルノブロッキング

安心ネットづくり促進協議会
児童ポルノ対策作業部会最終報告書 (2010年6月8日)
法的問題検討サブワーキング報告書 (2010年3月30日)
http://www.good-net.jp/investigation/working-group/anti-child-porn/2010/169-1751.html

帯域制御と通信の秘密
帯域制御ガイドライン運用基準検討協議会「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」
https://www.jaipa.or.jp/other/bandwidth/

迷惑メール対策と通信の秘密
送信ドメイン認証及びOP25Bに関する法的解釈
「迷惑メール対策技術導入を検討されている事業者の方へ」(2006年11月14日公表)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/jigyosha.html

送信ドメイン認証及び25番ポートブロックに関する法的留意点の概要
受信側における送信ドメイン認証技術導入に関する法的な留意点
Outbound Port 25 Blocking導入に関する法的な留意点
Inbound Port 25 Blocking導入に関する法的な留意点

全般
Internet Week 2007 C4 事業者がやってよいこと悪いことを考えよう
https://www.nic.ad.jp/ja/materials/iw/2007/proceedings/C4/
『通信の秘密』と『セキュリティ』の法律講座   壇 俊光など

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2015年6月 1日 (月)

IPv4アドレスの共有と発信者情報開示問題

インターネット上で書き込まれた内容で事件や問題が起こりますと、ISPが接続ログ[1]から利用者の特定と開示を行うことが求められることがあります。刑事では警察が裁判所の令状を持って差押という形で、その書き込みを行った利用者が使ったISPに対し接続ログからの利用者の特定と開示を請求します。民事では、被害者がまず掲示板事業者等のサービスプロバイダに対しプロバイダ責任制限法に基づき任意または民事裁判を通じて発信者情報開示請求を行い、掲示板事業者等のサービスプロバイダが書き込みを行ったIPアドレス(通常はグローバルIPv4アドレス)を開示します。被害者は次にそのIPアドレスを管理するISP(経由プロバイダとも言われます)に対し先に開示を受けたIPアドレスと書き込みの日時(タイムスタンプといいます)を提示して再度発信者情報開示請求を行い、請求を受けたISPが任意または民事裁判の判決により接続ログから利用者を特定し開示します。

これに関し、興味深い民事裁判の判決が昨年出されました。とある匿名掲示板で名誉毀損の書き込みをされたとする被害者が、掲示板運営事業者に対し書き込んだ加害者の情報を開示請求し、掲示板運営事業者が開示したグローバルIPv4アドレスを元に、書き込みに使われたISPである携帯電話キャリアに発信者情報の開示を請求しました。被害者はその発信者情報を元に、発信者を被告として損害賠償請求の訴訟を起こしたのですが、判決では携帯電話キャリアから開示された発信者情報に誤りがあり、携帯電話キャリアが「他の者を被告と認識してしまった可能性がある」「被告が本件各書き込みをした事実を認めることはできない」として、原告の損害賠償請求を棄却したのです。詳しくは20153月に出た判例時報の224569頁に掲載されていますので、そちらを参照いただきたいと思いますが、この問題はグローバルIPv4アドレスが共有されるのが普通になっている時代における、プロバイダ責任制限法の発信者情報開示の仕組みに波紋を投げかけています。

グローバルIPv4アドレスの枯渇に伴い、モバイル系のインターネットではかなり以前から、利用者間でグローバルIPv4アドレスを共有する手法が主流です。固定系インターネットの世界でもここ数年複数の利用者の間でグローバルIPv4アドレスを共有するサービスが登場してきています。いずれの場合も、インターネットのサービス側からすると、複数の利用者がひとつのグローバルIPv4アドレスを利用しているように見えます。こういったときに、サービス提供者側で同じIPv4アドレスを共有している利用者同士を識別するためには、ポート番号が使われます。ポート番号は0から65535までありますが、端末上のアプリケーションによっては複数のポート番号を用いるため、一人のユーザ(端末)には、おそらく数百個のポート番号が使えるよう割り当てられています。そうなると、1つのグローバルIPv4アドレスは、数百人が共用している計算になります。

ISPの接続ログは膨大な量ですが、モバイルでもよく利用されているNATという手法をとってグローバルIPv4アドレスの共有が行われている場合は、さらに量が膨大です。複数の利用者が同じグローバルIPv4アドレスを共有しているため、共有している数百人の中から一人の利用者を特定する作業は一層大変になります。書き込みがされた掲示板運営事業者側で、グローバルIPv4アドレスとタイムスタンプだけでなく、ポート番号まで開示してくれれば、それを元に発信元ISPでは特定作業がやりやすいのですが、現状ではプロバイダ責任制限法ではポート番号が開示の対象にはなっておらず、また掲示板事業者側でもポート番号までは開示するところは少数派のようです。

間違って自分の情報が書き込みをした犯人や加害者として開示されてしまうと、逮捕されたり、民事裁判の被告となったりして、大変なことになります。そういうことが無いよう、プロバイダの発信者情報開示には正確さが求められます。

技術的な解決策としては、ポート番号を開示の対象に加えるとともに、アドレスの共有の概念がないIPv6アドレスを用いることも有力な解決策です。今後、接続に使われたISPが他人の情報を開示するような問題が起きないようにするためには、掲示板事業者などのサービスプロバイダに対し、ポート番号の情報提供とともに、IPv4アドレスに加え、IPv6アドレスでもサービスを提供することを促したいと思います。

これに関連して、先月総務省の研究会でプレゼンを行ってきました。資料が総務省のサイトで公開されていますので、紹介します。

http://www.soumu.go.jp/main_content/000360558.pdf


[1]  ここでは接続認証ログを意味しますが、IPv4アドレス共有技術の一つであるMAPという手法で利用者にポート番号を割当てた記録も、技術的にはログとは言わないものの、法的には通信履歴の一部を構成する広い意味でのログと言えると思います。

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2013年5月 2日 (木)

通信ログの保存問題(1) 保存の原則

どういう訳か、最近通信ログの保存について、あちこちから質問されることが多いので、事実関係をまとめておきます。

まず、通信ログという言葉の定義ですが、法律では「通信履歴」となっているようです。いわゆるサイバー刑法として騒がれ、平成23年に「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」で改正された、刑事訴訟法197条に以下のように書かれています。

「電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者」が「その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴」(注)

この刑事訴訟法197条はいわゆる通信履歴の保存ではなく、保全を定めたものといわれています。保全と保存の違いは以前書きましたが、保全要請とは、プロバイダなどに対し、差押え等をするため必要があるときに、業務上実際に記録している通信履歴(通信の送信先、送信元、通信日時などであり、電子メールの本文等の通信内容は含まれません。)のうち必要なものを特定した上で、一時的に消去しないよう求めるもので、保全要請の対象となるのは、要請があった時点においてプロバイダなどが業務上記録しているものに限られるそうです。(法務省「いわゆるサイバー刑法に関するQ&A」より)

これに対し、保存とは、 通信記録を残しておくことです。以前廃案になった、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案の説明では、以下のようにかかれています。「保全要請の制度は,通信プロバイダ等に対し,新たに通信履歴の記録を義務づけるものでも,一律に全ての通信履歴を保存することを義務づけるものでもありません。

現在日本の法律では、通信履歴の保存を義務づけるものはないといわれています。

ところが、通信履歴の保存については、プロバイダには義務はないんですが、その反対の規定が総務省の告示として位置づけられる、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」に書かれています。

第23条 電気通信事業者は、通信履歴(利用者が電気通信を利用した日時、当該通信
の相手方その他の利用者の通信に係る情報であって通信内容以外のものをいう。以下
同じ。)については、課金、料金請求、苦情対応、不正利用の防止その他の業務の遂
行上必要な場合に限り、記録することができる。

この解説には、

(1) 通信履歴は、通信の構成要素であり、電気通信事業法第4条第1項の通信の秘密として保護される。したがって、これを記録することも通信の秘密の侵害に該当し得るが、課金、料金請求、苦情対応、自己の管理するシステムの安全性の確保その他の業務の遂行上必要な場合には正当業務行為として少なくとも違法性が阻却されると考えられる。

(5) いったん記録した通信履歴は、第10条の規定に従い、記録目的に必要な範囲で保存期間を設定することを原則とし、保存期間が経過したときは速やかに通信履歴を消去(個人情報の本人が識別できなくすることを含む。)する必要がある。この保存期間については、提供するサービスの種類、課金方法等により各電気通信事業者ごとに、また通信履歴の種類ごとに異なり得るが、その趣旨を没却しないように限定的に設定すべきであると考えられる。また、保存期間を設定していない場合には、記録目的を達成後、速やかに消去する必要がある。ただし、法令の規定による場合その他特別の理由がある場合には例外的に保存し続けることができると考えられる。自己又は第三者の権利を保護するため緊急行為として保存する必要がある場合は、その他特別な理由がある場合として保存が許されると考えられる。

第10条には、以下のように書かれています。

第10条 電気通信事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、原則として利用目的に必要な範囲内で保存期間を定めるものとし、当該保存期間経過後又は当該利用目的を達成した後は、当該個人情報を遅滞なく消去するものとする。
2 前項の規定にかかわらず、電気通信事業者は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、保存期間経過後又は利用目的達成後においても当該個人情報を消去しないことができる。
一 法令の規定に基づき、保存しなければならないとき。
二 本人の同意があるとき。
三 電気通信事業者が自己の業務の遂行に必要な限度で個人情報を保存する場合であって、当該個人情報を消去しないことについて相当な理由があるとき。
四 前3号に掲げる場合のほか、当該個人情報を消去しないことについて特別の理由があるとき。

また、この解説には、

(1) 取得された個人情報については、その目的を達成すれば保存の必要性がなくなることから速やかに消去すべきであるところ、その趣旨を徹底する観点から、利用目的に応じ保存期間を定めることを原則としている。こうすることは、正確性、最新性確保の観点からも望まれるほか、個人が不利益を被る機会を減少させるためにも有用である。ただし、個人情報によっては、一律に保存期間を定めることが難しいものもあり、すべての個人情報について保存期間を定めることまでは要求しないこととする。しかし、この場合でも、利用目的を達成すれば遅滞なく消去すべきものとする。また、保存期間内であっても利用目的を達成した後は消去するものとする。

(5) 「消去しないことについて特別の理由があるとき」とは、例えば、捜査機関から刑事事件の証拠となり得る特定の個人情報(通信の秘密に該当するものを除く。)について保存しておくよう要請があった場合等が考えられる。

とあります。

つまり、通信履歴の保存は、通信の秘密の侵害だから、課金、料金請求、苦情対応などの正当な目的や法律上の保存要請(保全)の場合などの場合以外は、遅滞なく消去するというものです。

現在の法律で通信履歴の保存が義務付けられていない以上、課金、料金請求、苦情対応などの目的がなくなった通信履歴は持っていてはいけないことになっています。

しかし、警察などからすると、保全要請の前提としては、通信履歴が保存してあることが必要で、そもそも保存されていなければ、あるいは保存されていても事業者が設定した保存期間が過ぎていて消去されてしまっていては、保全要請が意味をなさないことになります。そこで、プロバイダに対し保存を非公式に要請してきています。たとえば、警視庁はISPに対し、2009年10月16日に行われた「違法・有害サイト対策官民会議」で通信ログの保存期間の延長を要請したと報道されています。

(注)

サイバー刑法の元となった、サイバー犯罪条約では、以下のように定義されています。外務省のサイトにある和文テキストなんですが、ここでは「通信記録」ですね。英文ではtraffic dataとなっています。

「通信記録」とは、コンピュータ・システムによる通信に関するコンピュータ・データであって、通信の連鎖の一部を構成するコンピュータ・システムによって作り出され、かつ、通信の発信元、発信先、経路、時刻、日付、規模若しくは継続時間又は通信の基礎となるサービスの種類を示すものをいう。

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通信ログの保存問題(2) 保存の主体とログの種類など

通信ログの保存主体ですが、刑事訴訟法197条には保全について書かれています。保全と保存は違いますが、保存は保全の前提なので、主体については同じと思います。

「電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者」とは、電気通信事業者(インターネットではプロバイダ)のことです。「自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者」とは電気通信事業者ではないけど、電気通信の設備を設置している者ということで、このあたりの言葉の定義は総務省の「電気通信事業参入マニュアル[追補版]― 届出等の要否に関する考え方及び事例 ―」に詳しく書かれています。

電気通信事業者(プロバイダ)は、いわゆるISPのほか、掲示板事業者(登録・届出を要しない電気通信事業者)が含まれます。

プロバイダにはいろいろ種類がありますが、ここでは典型的な事例として、インターネット接続事業者(ISP)と掲示板提供事業者をあげてみます。

ISPの場合の通信ログは、接続認証ログがメインです。通信開始の日時、通信終了の日時、ユーザID、割り当てたIPアドレスとなります。RADIUS(ラディウス)というシステムを使って認証している場合はRADIUSのログと言われます。回線認証の場合は、DHCPサーバーのログになりますでしょうか。

掲示板の場合は、書き込みがあった時の日時(タイムスタンプといいます)、書き込んだ人のIPアドレス、書き込んだ内容、題名などでしょうか。これは掲示板のサーバーが作成するログになります。よくホームページはapache(アパッチ)というサーバーソフトウェアを利用して構築するのですが、アパッチのログは書いた人だけでなく、読んだ人の記録もあり、アクセスした人のブラウザやOSのバージョンなどの情報もあるため、サイズが大きく、生ログといわれるそのままの状態では保存に適しておらず、せいぜい数日分しか保存しているところはないといわれています。

このほか、ISPでログといわれるものには、メールの送受信ログ、FTPのログ、DNSのログ、Webの認証のログ(認証のあるもの)、プロキシーのログ、NATサーバーのログ、IP電話のログなどがありますが、すべてのISPがこれらのサービスを提供しているわけではありません。犯罪捜査の目的からすると必要なのは認証以外ではメールとProxy、NATサーバーとせいぜいFTPサーバーのログ位だと思います。

ちなみに欧州評議会の指令(Directive)を見ますと、以下のように書かれています。

a) data necessary to trace and identify the source of a communication:(送信元を確定するために必要なデータとして)

(2) concerning Internet access, Internet e-mail and Internet telephony:(インターネット接続、電子メール、インターネット電話の場合)

(i) the user ID(s) allocated; 割り当てたユーザID

(ii) the user ID and telephone number allocated to any communication entering the public telephone network;(電話につき略)

(iii) the name and address of the subscriber or registered user to whom an Internet Protocol (IP) address, user ID or telephone number was allocated at the time of the communication;(通信が行われた時点の会員または登録ユーザーの名前と住所、IPアドレス、割り当てたユーザIDまたは電話番号)

(c) data necessary to identify the date, time and duration of a communication:(通信日時を特定するためのデータとして)

(i) the date and time of the log-in and log-off of the Internet access service, based on a certain time zone, together with the IP address, whether dynamic or static, allocated by the Internet access service provider to a communication, and the user ID of the subscriber or registered user;(タイムゾーン、インターンセット接続のログイン、ログアウト日時、IPアドレス、ユーザーID)

(ii) the date and time of the log-in and log-off of the Internet e-mail service or Internet telephony service, based on a certain time zone;(略)

こうみると、欧州評議会の指令で対象となっているのは、インターネット接続サービスと電子メール、インターネット電話だけで、掲示板などは対象ではないようですね。

EU指令では6か月から24か月の間の保存を定めているんですが、各国の状況についてはここに一覧が載っています。EU指令ではretentionという言葉が使われていて、これは日本では保全と訳されていることから、やや混乱しています。

http://wiki.vorratsdatenspeicherung.de/Transposition

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通信ログの保存問題(3) 実際の活用手順

通信ログの保存問題の最後として、実際にどのような状況で保存された通信ログが活用されるかを紹介したいと思います。

よくあるのは、掲示板に殺人予告などが書き込まれた場合です。犯罪として警察の捜査が始まります。警察は掲示板事業者に、その内容を書き込んだIPアドレスとタイムスタンプ(日時)を照会します。

IPアドレスがわかると、警察はインターネット上で公開されているwhois(フーイズ)というサービスを使って、そのIPアドレスがどこのISPから割り当てられたものかを検索します。IPアドレスは12桁の数字で構成される、インターネットの世界の電話番号のようなもので、世界でユニークなので、掲示板事業者が書き込んだ時に使われたものとして示すIPアドレスは、それを割り当てたISPのIPアドレスと一致します。

次に警察は裁判所から捜索差押令状を得て、それをISPに示して、そのIPアドレスをその掲示板に書き込んだ日時に割り当てていたユーザーの住所氏名の情報を提示させます。(実際にはもう少し前後のやり取りがありますが) ISPはその場合、接続認証ログから、その時間帯にそのIPアドレスを割り当てたユーザーIDを割り出し、ユーザーIDから契約者の情報を割り出します。

ISPは電気通信事業者であり、通信の秘密の保持の義務を持ちますので、警察からの照会といえども、正式な刑事訴訟法の手続きを経ないで、情報を開示しては、ISP自身が通信の秘密の保護の義務を定める電気通信事業法第4条違反に問われるからです。ISPの接続ログは通信の秘密にかかわるものですから、警察に対して提供することも法律上の根拠がなければ「漏えい」(通信の秘密を侵した)ことなるからです。

掲示板の提供事業者とISPは通常異なりますので、警察は2者に対し、2回にわたって照会をしなければなりません。

IPアドレスはISPの契約者にISPが割り当てていますが、通常は固定的ではなく、可変的に割り当てられています。したがって、IPアドレスだけでは、どの契約者かわかりません。そのため、IPアドレスがその時間に割り当てられたユーザーの特定には接続認証ログの参照が必要になるわけです。

IPアドレスにはプライベートアドレスというのがあり、一部の移動体通信網やかつてのケーブルテレビインターネットで使われいます。また、企業や家庭内LANでもプライベートアドレスが使われています。企業や家庭内LANの場合はISPの契約者まで特定できるので良いのですが、移動体通信網などで複数の利用者でIPアドレス(この場合はグローバルIPアドレス)を共有している場合、その通信を実際に行ったユーザーを特定するためには、グローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスを変換したNAT(正確にはNAPT)のサーバーのログを解析する必要があります。これも通信事業者の仕事です。NATもインターネット接続サービスのログの一部を構成します。

なお、一部に誤解があるかもしれませんが、通常ISPでは利用者がどのホームページを使ったかなどのサービス利用についてまでは記録は取っておりません。(企業内などではよくありますが) ISPの接続認証記録でわかるのは、その時間帯にIPアドレスを割り当てていたユーザーが誰か、ということだけです。

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2012年12月 3日 (月)

日本版フェアユースとは何か

フェアユースとは、アメリカの著作権法107条に規定されている制度で、批評、解説、報道、研究、調査の目的の利用なら、著作権者の許諾なしに著作物を利用しても侵害とならないというものです。アメリカでは130年の判例を積み重ね、成文法としては1976年の法改正で規定されました。

これは1.使用の目的、性質、2.著作物の性質、3.著作物全体の量との関係、実質性、4.著作物の潜在的市場の価値とその影響の4つの要素から判断されるそうです。それを裁判所が判断するそうですが、日本のような実定法主義の国では難しいとされています。

アメリカのような判例法主義の国と違い、実定法主義の日本では、法律の条文で、誰がどういう目的でどういう場面で使うか要件を規定し、国民が予見可能性を持つ明確性が必要なのだそうです。著作権法の違反は刑法の規定でもあるため、法務省によれば、あいまいなフェアユースの概念は罪刑法定主義にも反するのだそうです。

そのため、これを1.著作物の付随的な利用、2.適法利用の過程における利用、3.著作物の表現を享受しない利用の3類型に分けて検討したのが、日本版フェアユースといわれる「権利制限の一般規定」となったのだそうです。

このあたりの話が、知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会(第4回)の資料2-1に詳しく書いてあります。

文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定に関する最終まとめの概要

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2012年11月28日 (水)

通信記録の保存と保全

通信記録の保存と保全について最近調べることが多いのですが、海外の事例、特にヨーロッパを調べるときに英語版のWikipediaの情報が非常に整理されていて参考になります。

ヨーロッパではEU(欧州委員会)がこれについて指令を出していて、それに基づいて各国が法制化することになっています。

英語版Wikipediaでは特にイギリスの事例が詳しく書かれています。通信記録と言われますが、実際にはいろいろな種類がありますが、ここでは具体的に整理されています。「Telecommunications data retention」で調べてみてください。

ちなみにretentionは保存で、日本の刑事訴訟法で昨年から要請できるようになった保全はpreservationといいます。保存は通信時からのもので、保全は要請が来てからのものとなります。

2013.03.29追記

最近問い合わせが多いもので調べなおしているんですが、英語版Wikipediaの記述が私が以前参照したものから改訂されて、ログの種類が落とされてしまったようです。

仕方なくEU指令の原文を参照しますと、我々が普段意識しているサーバーのログとは別な書き方で整理されています。

しかし、ここでいうretantion(保全)って、保存を前提としているようで、実務的には保存とほとんど同じように思えるんですが、どうでしょうか?

参考までに日本語で書かれた関連記事を紹介します。

http://blog.goo.ne.jp/fukuhei_2006/e/1c9bb8bcd799ec53c4ff800c3894c394

http://blog.goo.ne.jp/fukuhei_2006/e/270b8e423d5d9e265290be976dab391d

文化庁 インターネット上の著作権侵害対策ハンドブック 欧州編

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2012年10月26日 (金)

WCIT問題

いま、インターネットの業界でホットな話題の一つに、ITUのWCIT問題というものがあります。

国連の専門機関であるITU(国際電気通信連合)がWCITWorld Conference on International Telecommunications:世界国際電気通信会議)を12月にドバイで開催しITRInternational Telecommunication Regulations:国際電気通信規則)を改訂に取り組んでいます。

世界各国から提案が寄せられ、ロシアや中国といった新興国からの提案の中には、政府主導でインターネットの規制を行うことを可能とするようにしようという動きもあります。

ITUは国際的な通信キャリアの連合で、インターネットはICANNやIETFなどで標準化を行ってきたので、両者はあまり仲良いとはいえず、ITUではインターネットについての標準化というのは多少はありますが、ITU全体からするとメジャーとは言えないと思います。

しかし、ITUの規則は、国際条約という位置づけがあり、日本では法律よりも効力があるとされています。ITUの規則が改定されると、国内法もそれに準拠して改正されることになります。ですから、決して無視できません。

WCITについては、日本では総務省と外務省で以前から取り組みがされてきましたが、ITUは一般からも意見を募集しています。

http://www.itu.int/en/wcit-12/Pages/public.aspx

意見はまだあまり多く出されていないのですが、興味深い意見ばかりです。中でも韓国から10月24日にだされた意見は、ネットワークの中立性の問題を取り上げています。総論的な意見で、現段階でこれを出すことにどれほどの意味があるか疑問がありますが、データとして興味深いものです。そのほか同じ国連機関のUNESCOやスイスやアメリカ、オーストラリアの団体のものも賛同できるものと思います。(ITUはインターネットに関与するべきではないとか)

参考記事 http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20120723_548686.html

参考資料

総務省 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/cyberspace_rule/wcit-12.html

Email Security Conference 2012では、S3 インターネットをめぐる国際的な規制の動向」で、総務省の情報通信政策研究所の所長で、前国際政策課の課長としてこの問題の直接のご担当の仲矢徹さんにお話をいただく予定です。

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2012年10月17日 (水)

いわゆる日本版フェアユースから著作権法改正まで

Email Security Conference 2012というイベントで、プログラム委員をしている関係で、文化庁著作権課の方に「平成24年の著作権法の一部を改正する法律について」という講演をお願いしました。
今年の著作権法改正では、違法ダウンロードの処罰化が話題となりましたので、そのことについて話をしていただこうと思ったんですが、予想以上に充実した内容でした。

アメリカの著作権法には「フェアユース」という概念があり、これがインターネット上の著作権問題を解決するにあたって、非常に有益であるという話はかねてより聞いており、日本にはこのような制度がないことをかねてより残念に思っておりました。

この講演では、政府の知的財産計画2009において、いわゆる「日本版フェアユース」ということがどのように検討され、それが「権利制限の一般規定」と名前を変えて、今年の著作権法改正でどのように盛り込まれたかという経緯について詳しく聞くことができました。

これでかねてより、この問題について抱いていたモヤモヤした疑問が一気に解消しました。

これを今年のInternet Week 2012でも、「S3 インターネットをめぐる国際的な規制の動向」お話していただくことを予定しています。


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